となり町戦争:三崎 亜記

となり町戦争

となり町戦争

広報誌によって隣町との戦争が開始された事が告知された。主人公は隣町との間で戦争が起こっている事は認識はしていて末端の偵察任務とはいえ戦争に加担したのだけれど、結局は自分達が戦争をしていたという実感は、戦争を運営している側の一部の人間の姿と伝聞情報と少しだの状況証拠だけから導き出されたものでしかないんですよね。主人公は断片情報ながらも戦争がもたらした物を知る事が出来たけれど、しかし何も知らない感じ取れないままで終わる可能性も十分にありましたし、知ってしまってもまた何事も無い日常生活は続いていくという虚無感と不条理さになんともいえない読後感を覚えます。最後は青春小説っぽくなってしまっているのはご愛嬌なのかな、そこだけはナイーブに過ぎるように思いましたけど面白く読めました。

断片的な情報から戦争が投げかけた影を少しばかりしか嗅ぎ取る事のしか出来ない主人公の姿を、システムの歯車としてしか見なされず、世界や社会で起こっている事象の全体や本質を実感として掴み取る事が難しくなっている現代人の姿と危うさを描き出しているのだろうけれど。現代においての疎外という事についてはそういう感覚は良く言われている事でもありますし実感としても判らないでもないですよね。身も蓋も無い意見ですけど、商品の出荷状況を眺めて初めて季節や景気の動向を感じるという感覚に通じる物があるのだろうと思ったり。
★★★