伊坂幸太郎 魔王

魔王

魔王

不思議な能力を持ってしまった兄弟の物語ですね。


急速に右傾化する世論その扇動者である犬飼の存在に危険な物を感じる兄の苛立ちがサ息の詰まるスペンス調で綴られる前半部の「魔王」と仙台で猛禽類の観察を続ける弟の生活をその妻の視点から穏やかな調子で描いた後半部の「呼吸」の二部構成なのだけれど、前半と後半の対比や伏線の絡ませ方はとてもスマートで、兄弟間で意思の継承と絆の強さを読者に対して印象に残る物として描き出せていると思う。この辺りはさすがだなぁと素直に感心してしまう。ただ、流石にそらに溶けた〜云々の「魔王」「呼吸」の関連のさせ方には辺りはライトノベル風というかややファンタジーに過ぎるのではないかと少しばかり力が抜けてしまいましたが(笑)


最後のの弟の選択は固い決意と過酷な未来が待ち構えているのだろうけれど、それをさらりと描いて読後感を爽やかな物にしているのはいかにも作者のやり口か。でも、それが心地よい。


★★★★